大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 医療創生科学部門 分子口腔医学講座 口腔外科学分野(歯学系) 教授
宮本 洋二 [教授] みやもと ようじ
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研究は治療の現場での応用のために
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今回紹介する宮本先生は、歯や骨の再生?再建に関する研究に一貫して取り組んでいます。歯がなくなった患者さんには、最近、チタン製の人工歯根(インプラント)で新たな人工の歯を作る治療が普及しています。先生はインプラントと骨を今まで以上に速く結合させる方法や、口腔がんなどでなくなった骨をバイオマテリアル(※1)を使って再生させようとしているのです。
再生医療では、最近、京都大の山中先生が開発したiPS 細胞(人工多能性幹細胞)が注目されていますが、まだまだ発がん性の問題や不確定な部分もあり、さらに高額の治療費がかかる欠点があります。先生の研究は、新たな素材、新規のバイオマテリアルを開発することによって再生医療を行おうとする取り組みです。
骨をバイオマテリアルで代替しようとする方法は、以前からあり、ハイドロキシアパタイト(※2)という骨の無機成分と同じセラミックスが臨床使用されています。しかし、このハイドロキシアパタイトは体内で吸収されないので、異物として永久に残ってしまいます。先生は「最良のバイオマテリアルは生体組織である」という考えから、骨と置き換わる素材の開発に励んできました。
骨は体内で新生と吸収を繰り返しているのに、骨と同じ成分のハイドロキシアパタイトが体内でなぜ吸収されないのかというと、骨のアパタイトには含まれている炭酸基という物質をハイドロキシアパタイトが含んでいないことと、製造時に焼結(高熱で焼き固める)するために結晶度が上がる(堅くなりすぎる)ことが原因でした。
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先生の研究には、生涯の友となる素晴らしいパートナーがいます。九州大学大学院歯学研究院の石川邦夫(いしかわくにお)教授です。石川先生は大阪大学工学部出身で、徳大で助教をされていた時期があり、その時に先生にバイオマテリアルのことで相談したことから交際が始まり、友だちとして、共同研究者として、現在も親交が続いています。「徳大時代には、良く飲みにも行き、お互いの研究で議論を交わしました。今の研究に、ほんとうにたくさんのヒントをいただきました」
先生と石川教授との共同研究によって、焼結過程なしに炭酸アパタイトを作成することに成功し、これを臨床応用しようと頑張っています。実際、これまでに顆粒状やブロック状の炭酸アパタイトを作っています。
さらに、より実物の骨に近い形状の炭酸アパタイトの作成にも成功しています。骨の中心部は海綿骨と呼ばれるスポンジ状の構造になっています。特許に関わる部分もありますので大ざっぱな説明になりますが、スポンジ状の素材 (主にウレタンスポンジ)にリン酸カルシウムを染み込ませた後、炭酸化とリン酸化を行い、海綿骨状の炭酸アパタイトを作る事に成功しました。これを骨の欠損部に入れて、骨の治癒?再生と炭酸アパタイトの吸収の状態を確かめています。さらに、このスポンジ状の炭酸アパタイトに骨を作る細胞を注入して培養した後に、人の体の中に移植して骨をつくる再生医療の実現に向けて研究を進めています。
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そんな良いものなら早く治療に、と私たちは思いますが、ご存じのように新薬や新しい治療方法には、国の認可が必要です。欧米に比べて日本は、良い意味で解釈すると慎重すぎるぐらい慎重です。いろいろな副作用の確認のために、動物実験を繰り返し、人による治験が必要です。それに加えて、その間に莫大な研究や申請のための費用がかかるため、研究者単独ではどうしようもない現実があります。「医療用バイオマテリアルのほとんどは輸入品です。国産の吸収性骨補填材の新規の承認は皆無です。国はもっと柔軟に、早く認可出来る施策をとらないと、国際競争に負け続けます。そして、炭酸アパタイトは手や足など体中の骨に使えるので、臨床の現場では多くの患者さんが待っています。何としてもこの研究を早く患者さんに届けて、多くの方のお役に立ちたいのです」という宮本先生は、企業とも協力して、この新しいバイオマテリアルが早く臨床の現場で使われるようにと取り組んでいます。
研究者の道は、いつ出口が見えるのかわからないものもあります。それぞれの研究者がそれぞれの立場?分野で日々研究に取り組んでいます。だからこそ、先生の信念は「臨床現場ですぐ役立つ研究」です。
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(※1)バイオマテリアル(生体材料)
人の身体に移植するための、人工の関節やインプラント、人工骨、人工血管などの素材のこと。
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(※2)ハイドロキシアパタイト
歯や骨を構成する主成分。アパタイトはリン酸塩という物質から出来た鉱物の総称で、フッ素を含むものは燐灰石(りんかいせき)、水酸基を含むものはハイドロキシアパタイトと呼ばれる。
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- 出身 兵庫県
- 学歴
- 1983 年 3月? 徳島大学歯学部歯学科卒業
- 4月? 徳島大学大学院歯学研究科入学
- 1987 年 3月? 徳島大学大学院
- 歯学研究科修了、歯学博士
- 職歴
- 1987 年 4月? 徳島大学歯学部附属病院助手
- (第一口腔外科)
- 1992 年 4月? 徳島大学歯学部
- 附属病院講師(第一口腔外科)
- 1997 年 8月? 文部省在外研究員
- (Washington University, MO, USA)
- 2003 年 12月? 秋田大学医学部
- 附属病院助教授(歯科口腔外科)
- 口腔外科科長併任
- 2005 年 6月? 秋田大学医学部
- 附属病院教授(歯科口腔外科)
- 2007 年 4月? 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部教授
- (口腔外科学分野)
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[取材] 149号(平成24年11月号より)